EU AI Actの制裁金と施行スケジュールを数字で読む — 全世界売上7%と2026年の後ろ倒し

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海外AI事例/ニュース公開 2026年7月25日更新 2026年7月25日読了 約10分

EU AI Actは、禁止AIの利用に最大€3,500万(約65億円)または全世界年間売上高の7%の制裁金を定める。適用は段階施行で、高リスク義務は当初の2026年8月から2027年12月・2028年8月へ後ろ倒しされた。数字と一次情報で整理する。

※本記事の円換算はすべて概算。1ユーロ ≈ 186円(2026年7月時点、Investing.com ・ Wise 等の為替レートより。相場変動により変わります)で算出している。

以下では、制裁金の段階、施行スケジュール、そして汎用AI(GPAI)ルールを、確認できる数値と一次情報のURLだけを使って読み解いていく。金額・日付・しきい値はすべて出典リンクを付し、推計値には概算・推計と明記する。

目次
  1. EU AI Actの全体像とリスク4分類
  2. 制裁金の3段階 — 最大で全世界売上の7%
    1. 3段階の内訳
    2. 中小企業(SME)への特則
  3. 段階施行のタイムラインと2026年の後ろ倒し
    1. 当初日程と改定後日程
    2. Digital Omnibusで入ったその他の変更
  4. 汎用AI(GPAI)の義務と1025 FLOPという線引き
  5. GPAI行動規範と署名企業
  6. 禁止される8類型(第5条)
  7. 企業が負うコンプライアンス負担(概算)
  8. 日本企業と世界への含意
  9. よくある質問

EU AI Actの全体像とリスク4分類 #

EU AI Actは、AIシステムをリスクの高さに応じて4区分で扱う世界初の包括的なAI規制である。区分は「許容できないリスク(禁止)」「高リスク」「限定リスク(透明性義務)」「最小リスク(義務なし)」の4区分で、汎用AI(GPAI)は横断的なルール群として第5章に別枠で置かれている。

根拠条文はRegulation (EU) 2024/1689で、リスク区分の詳細は欧州委員会の規制フレームワーク解説ページでも確認できる。4区分の扱いは次のとおりである。

分類 内容 規制の扱い
許容できないリスク(unacceptable) サブリミナル操作、社会的スコアリングなど 禁止(第5条
高リスク(high) 附属書I・IIIに列挙された用途 適合性評価・文書化などの義務(第6条・附属書I/III)
限定リスク(limited) チャットボットなど人が対話するAI 透明性義務(第50条
最小リスク(minimal) 上記に該当しない大半のAI 義務なし(任意の規範)

正式には2024年7月12日にEU官報(OJ L, 2024/1689)へ掲載され、公布から20日後の2024年8月1日に発効した(第113条)。

ただし発効と適用は別物で、義務ごとに適用開始日がずれる段階施行が採られている。この点が、規則を読むうえでの起点になる。

なお「きれいな4層ピラミッド」という説明は便宜的なもので、実際には複数のコンプライアンス判定が独立して積み重なる構造である点は留意したい。それでも、規制の入口を理解するうえで4区分は欧州委員会自身も採る標準的な枠組みである。

制裁金の3段階 — 最大で全世界売上の7% #

結論から言えば、EU AI Actの制裁金は違反の重さに応じて3段階に分かれ、通常の事業者ではいずれも「固定額」か「全世界年間売上高に対する割合」のうち高いほうが適用される。最も重い禁止AI違反では、上限が全世界売上の7%に達する。

3段階の内訳 #

3段階の内訳は次のとおりである。出典はいずれも第99条および欧州委員会のAI Act Service Desk

違反類型 上限額 円換算(概算) 全世界売上比 該当条文
禁止AIの利用 €3,500万 約65億円 7% 第5条・第99条
その他の義務違反(高リスク義務・透明性義務・GPAI提供者の義務など) €1,500万 約28億円 3% 第99条・第101条
認証機関や当局への不正確・不完全・誤解を招く情報提供 €750万 約14億円 1% 第99条

いずれも通常事業者では「固定額と割合のうち高いほう」が上限となる。GPAI提供者向けの制裁は第101条で別途規定されるが、金額水準はその他の義務違反と同じ€1,500万(約28億円)/3%である。

中小企業(SME)への特則 #

重要な例外として、中小企業(SME)やスタートアップに対しては、各制裁金は「固定額」か「割合」のうち低いほうが上限となる(第99条(6))。通常事業者の「高いほう」ルールとちょうど逆で、小規模事業者の負担が過大にならないよう配慮された設計である。

段階施行のタイムラインと2026年の後ろ倒し #

EU AI Actは一斉に全面適用されるのではなく、義務ごとに開始日が刻まれている。そして2026年6月に成立したDigital Omnibusにより、高リスクAIの適用日が大幅に後ろ倒しされた。2026年7月時点では、当初日程と改定後日程の両方を押さえておく必要がある。

  1. 2024年8月1日発効(変更なし)
  2. 2025年2月2日総則(第1章)と禁止AI(第5条)が適用開始
  3. 2025年8月2日GPAI義務(第5章)・ガバナンス(第7章)・罰則(第99条/第101条)が適用開始
  4. — 現在(2026年7月) —
  5. 2027年12月2日単独の高リスクAI(附属書III) 当初 2026年8月2日2027年12月2日
  6. 2028年8月2日規制対象製品に組み込まれた高リスクAI(附属書I) 当初 2027年8月2日2028年8月2日

当初日程と改定後日程 #

主な適用時期を、当初と改定後の状態が分かる形で正データとして整理すると次のとおりである。出典は当初日程がEUR-Lex 第113条AI Act Explorer、改定後日程がCouncil 2026年6月29日プレスリリース欧州議会 Legislative Train

適用時期 対象 状態(当初・改定後)
2024年8月1日 発効 変更なし
2025年2月2日 総則(第1章)と禁止AI(第5条)の適用 適用済み(変更なし)
2025年8月2日 GPAI義務(第5章)・ガバナンス(第7章)・罰則(第99条/第101条)の適用 適用済み(変更なし)
2027年12月2日 単独の高リスクAI(附属書III) 当初2026年8月2日 → 改定後2027年12月2日
2028年8月2日 規制対象製品に組み込まれた高リスクAI(附属書I) 当初2027年8月2日 → 改定後2028年8月2日

Digital Omnibusで入ったその他の変更 #

この後ろ倒しは、欧州委員会が2025年11月に提案し、2026年6月29日にEU理事会(Council)が最終承認したDigital Omnibus on AIによるものである。あわせて、以下の変更も入った。

  • 2026年12月2日 — 2026年8月2日時点で市場にあるAI生成コンテンツについて、第50条(2)の透かし・透明性義務(4か月の追加猶予)。
  • 2027年8月2日 — 各国のAI規制サンドボックス設置の新たな期限。
  • AI生成コンテンツの表示に関する猶予が6か月から3か月へ短縮。
  • 新たな禁止類型として、同意のない性的画像やCSAM(児童性的虐待コンテンツ)の生成を追加。

この流れは、理事会と議会が2026年5月7日に暫定合意し(Council 2026-05-07)、6月29日に確定したものである。

「理事会は、AIおよびデジタル分野のルールを簡素化・合理化する提案に最終的な承認を与えた」— Council of the EU, 2026年6月29日

つまり、2026年8月から高リスク義務が本格化するという当初想定は、実務上は2027年末以降へずれ込んだ。ただし、すでに適用済みの禁止AI(2025年2月)とGPAI義務(2025年8月)はそのまま有効である点に注意したい。

汎用AI(GPAI)の義務と1025 FLOPという線引き #

GPAI(汎用AIモデル)については、システミックリスクを持つモデルかどうかを分ける明確な計算量のしきい値が置かれている。累積訓練計算量が1025 FLOP以上のモデルは、システミックリスクを伴うGPAI(GPAISR)と推定される。

この推定は反証可能で、しきい値に達した(あるいは達する見込みの)提供者は、2週間以内に欧州委員会へ通知する義務を負う(出典:第51条、義務の詳細は第55条、および欧州委員会のGPAIモデルに関するQ&A)。GPAIモデルの義務は2025年8月2日から適用が始まっている。

GPAI提供者の義務違反に対する制裁は第101条にもとづき、上限は€1,500万(約28億円)または全世界売上の3%のうち高いほうとなる。

監督体制は二層構造である。GPAIの監督は欧州委員会内に設けられたAI Office(European AI Office)が担い、AIシステム自体のルールは各国の所管当局が執行する。

GPAI行動規範と署名企業 #

GPAI義務の実務指針となる「GPAI行動規範(Code of Practice)」は、欧州委員会・AI Officeによって2025年7月10日に公表された。独立した有識者らが起草し、透明性・著作権・安全性/セキュリティの3章で構成される。

署名企業のリストは2025年8月1日に公開された(出典:欧州委員会 行動規範ページ署名タスクフォースCode of Practice公式サイト)。OpenAI、Google、Microsoft、Anthropic、Mistral AIなど20社超が署名した一方、xAIは安全性/セキュリティの章のみに署名している。

対照的に、Metaは2025年7月18日に署名しない方針を表明し、規範を「行き過ぎ(overreach)」と評した(出典:CNBC(二次情報))。署名は任意だが、規範に沿うことで義務の遵守が推定されやすくなるため、主要提供者の対応は業界の温度感を映す指標になっている。

禁止される8類型(第5条) #

最も重い制裁の対象となる「許容できないリスク」のAI、すなわち禁止される行為は、原文の第5条で8つの類型として整理され、2025年2月2日から適用されている(出典:第5条AI Act Service Desk 第5条)。

  • 害を及ぼすサブリミナル・操作的手法。
  • 年齢や障害などの脆弱性の悪用。
  • 社会的スコアリング(ソーシャルスコアリング)。
  • プロファイリングのみにもとづく犯罪予測(予測的取締り)。
  • 顔画像の無差別スクレイピングによるデータベース構築。
  • 職場・教育現場での感情認識。
  • センシティブ属性による生体情報のカテゴリー分類。
  • 法執行目的での公共空間におけるリアルタイム遠隔生体識別(狭い例外あり)。

前述のとおり、2026年のDigital Omnibusでは、同意のない性的画像やCSAMの生成という新たな禁止類型が追加された。したがって現在は「原文の8類型に加え、2026年改定で1類型が追加された」と理解するのが正確である。

企業が負うコンプライアンス負担(概算) #

コンプライアンス費用は公式に定められた数字ではなく、助言機関やシンクタンクによる推計であり、幅も大きい。以下はいずれも概算・推計として扱う必要がある。

より広い推計では、役割に応じて次のような費用帯が示される(いずれも概算。出典:aiactblog.nlSQ Magazine)。

役割 初期費用(概算) 年間費用(概算)
提供者(高リスクAIのプロバイダー) €20万〜€60万
約3,700万〜約1.1億円
€8万〜€15万
約1,500万〜約2,800万円
利用者(高リスクAIのデプロイヤー) €2万〜€5万
約370万〜約930万円
€5千〜€1.5万
約93万〜約280万円

単一システムに絞ると、高リスクAI 1システムあたりの年間対応費用は、しばしば約€52,000(約970万円)(概算)と引用される(出典:CEPS)。

また、どれくらいのシステムが高リスクに該当するかについては、企業のAIシステム106件を分析したappliedAIの調査で、次の結果が示されている(推計。出典:appliedAI)。

  • 18% — 高リスク。
  • 42% — 低リスク。
  • 40% — 判別困難。

実際に高リスクに落ちる割合は限られる一方で、判別困難が4割を占める点が実務の悩みどころだと読み取れる。

なお、これまでに公表された制裁金の事例は、2026年7月時点の調査では確認できていない。禁止AIの執行は2025年2月に始まっているが、公表ベースでの制裁金は「今のところ報告なし」という状況である(証拠の不在であり、皆無の確証ではない)。

日本企業と世界への含意 #

EU AI Actは域外適用の性格を持ち、EU市場にAIシステムを投入したり、EU域内の人々に影響するアウトプットを提供したりする限り、所在地がどこであっても対象になりうる。したがって日本企業も無関係ではない。

市場規模の観点では、EUのAI市場は2025年で約355.5億ドル、2034年に約2,340億ドルへ拡大するとの試算がある(推計。単一調査会社の見立てで幅が大きい。出典:IMARC Group)。また、EU企業のうち少なくとも1つのAI技術を使う企業は約13.5%、社数にして約36.4万社とされる(推計。二次情報経由でEurostatに帰属)。

制裁金の上限が全世界売上の7%に及ぶこと、そして高リスク義務の期限が2027年末〜2028年へ延びたことを合わせると、いま取るべき現実的な構えが見えてくる。

順序としては、適用済みの禁止AI(2025年2月)とGPAI義務(2025年8月)は直ちに順守しつつ、高リスク該当性の棚卸しと文書化は延びた猶予を使って前倒しで進める、という形になる。

猶予が延びたのは義務が消えたからではなく、標準規格の整備を待つための時間確保である。この点を取り違えると、2027年末に慌てることになる。

要点を数字で押さえるなら、制裁金は最大€3,500万(約65億円)または全世界売上の7%(第99条)、GPAIのシステミックリスク基準は1025 FLOP(第51条)、高リスクの適用は当初の2026年8月から2027年12月(附属書III)・2028年8月(附属書I)へ後ろ倒し(Digital Omnibus, 2026年6月29日成立)。すでに動いている禁止AIとGPAIの義務は、待ってくれない。

よくある質問 #

EU AI Actの制裁金は最大でいくらですか?

最も重い禁止AI(第5条)違反で、€3,500万(約65億円)または全世界年間売上高の7%のうち高いほうが上限です(第99条)。

高リスクAIの義務はいつから適用されますか?

当初は2026年8月2日でしたが、2026年6月のDigital Omnibusにより、単独の高リスクAI(附属書III)は2027年12月2日、規制対象製品に組み込まれた高リスクAI(附属書I)は2028年8月2日へ後ろ倒しされました(Council 2026-06-29)。

GPAIの「システミックリスク」の基準は何ですか?

累積訓練計算量が1025 FLOP以上のモデルは、システミックリスクを伴うと推定されます(反証可能。第51条)。

GPAI行動規範にはどの企業が署名しましたか?

OpenAI、Google、Microsoft、Anthropic、Mistral AIなど20社超が署名し、xAIは安全性/セキュリティ章のみに署名しました。Metaは署名を見送っています(署名タスクフォース)。

中小企業(SME)の制裁金は大企業と違いますか?

違います。SMEやスタートアップでは、固定額と割合のうち低いほうが上限になります(通常事業者とは逆。第99条(6))。

日本企業も規制の対象になりますか?

なりえます。EU市場へAIを投入する、あるいはEU域内の人々に影響するアウトプットを提供する場合、所在地を問わず適用対象になりえます。

これまでに制裁金が科された事例はありますか?

2026年7月時点の調査では、公表された制裁金の事例は確認できていません。禁止AIの執行自体は2025年2月に始まっています。

参考文献 #

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